カタギリ夫人
さて、わが家の木たちの方は。春の訪れでは、ジシバリに先を越されたが、ちゃんと芽が出た。梅雨で、水をたっぷり吸い、夏になると、木がひと回りもふた回りも大きくなったように感じられた。葉をつけただけでなく、枝もまた伸びたのだろう。(二度の引っ越しに耐えたのだ)肥料もやらず、まめに世話したわけでもないのに、これだけ育ってくれた。引っ越しからこっち、人間は人間で、木の方は木で、それぞれに試行錯誤しながらも、季節はめぐっていたことを思わせ、何かしら感動的だ。家の中の生活が、どうにかスタートできた今、これからは庭にも心を向けよう。暑い日々が続き、カタギリ夫人は水まきに余念がない。フェンスの向こうに、しょっちゅうしぶきが見える。鉢はじか植えよりももっと、給水に気を配らないといけないのだ。ときにはホースの手を止めて、リビングに招き入れてくれた。そういうとき、話題はひたすら「庭」だった。カタギリ夫人は、ぱっと見は、落ち着いた奥さまタイプだが、そのテーマになると、鏡舌さにおいて、私にひけをとらない。
資産価値を決める要素
カタギリ夫人は庭をはじめてから、住んでいるところに対する愛着がぐっと深まったという。カタギリさんのマンションも築十何年か経っており、いろいろ修理する箇所が出てくるにつれ、(古くなると維持していくのがたいへんだ。新しいところに移りたいな)と思うこともあった。が、鉢植えといえども草花が根づき、この庭で「所を得たり」とばかりぞんぶんに咲いているのを見ると、動く気がなくなった。まわりは「これ以上築年数が経たないうちに売った方がいいわよ」と言うが、当面は手放さないつもりという。郵便受けにも、「××マンションの方々へ。求む、売却物件!」「当マンション限定で探しているお客様が多数いらっしゃいます。売却をお考えの方は是非ご一報下さい!」といったチラシが、さまざまな仲介会社から投げ込まれてくる。「そういうのが来るうちは、売り急がなくていいと思うのよ」と夫人。チラシが判断基準になるかどうかはわからないが、このへんは需要に対し供給が不足ぎみだから、一面では当たっているかも知れない。マンションの資産価値を決める要素は、ロケーション、管理などさまざまで、必ずしも築年数にのみ比例し下落するものではないらしい。
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